父を語る/令和5年1月の法話
【担 当】 河合弘善 師 〔愛知県西尾市 清海寺 徒弟〕
【御 題】 「父を語る」
令和四年は戦後七十七年という年でした。戦争をしないと憲法で誓った国、日本。今なお続く、ロシアによるウクライナ侵略は酸鼻を極めます。
大正十一年生まれの私の父は、寡黙でしたが、年を重ねるにつれ、自分の戦争体験を折にふれ話してくれるようになりました。「語らねばならぬ」と思ったのでしょうか...
父は旧満州からシベリアへ捕虜として連行され、三年弱の間、極寒と地で飢えと過酷な労働を強いられたそうです。氷点下四十度はよくあること。氷点下六十度も経験したそうな...
ひとかけらの黒パンと少しばかりのスープ。時々出される何の肉だかわからない少量の肉。父はその時のトラウマで私が知る限りミンチの一粒さえ死ぬまで肉を口にしたことはありませんでした。
その少しばかりのスープが一滴でも多く入るように工夫し、薄くて四角い容器に穴が開かないように慎重に、無数のへこみ凹を作った人もあったようです。でも朝になるとスプーンを握ったまま息絶え冷たくなっていることもしばしばあったとのこと... 父も栄養失調から重度の脚気になり生死をさまよったこともあったようです。有難いことに、それでも父は生きて帰って来ました。
今、私が生きていることが証となります。
父は九十三歳で亡くなりましたが、生きていれば令和四年で百歳でした。
私にとっての喜びは、元祖法然さまのお詠(うた)、
『つゆの身は ここかしこにて消えぬとも 心は同じ花のうてなぞ』
信心深い父でしたので”心は同じ花のうてなぞ”人の命は儚いけれど、阿弥陀様を信じる心が同じならば、私もいつかお浄土で父に会えるかと思うと自然に口からお念仏がこぼれてまいります。
なむあみだぶつ、なむあみだぶつ...
このたび、当布教師会より法然上人800回大遠忌記念事業として法話集「法然さまからのお手紙とお歌」を出版いたしました。
法然さまが「黒田の聖人(ひじり)」に宛てた一紙小消息を、管長猊下お手ずから、わかりやすく現代の言葉に置き換えていただき、それを一区切りづつ布教師会の布教師がお説教として書き下ろしました。 また法然さまの代表的なお歌を八首取り上げ、それをテーマとしたお説教も掲載しております。
この本のお求めは、≪総本山誓願寺公式サイト「出版書籍のご案内」ページ≫ よりご購入いただけます。(一部1,000円税込/送料別)
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