平成24年7月の法話/新美和彦師
【担 当】 新美和彦 師 〔愛知県蒲郡市 玉泉院 住職〕
【御 題】 「今年は、新美南吉 生誕100年です。」
今年は、新美南吉 生誕100年です。
この南吉の童話に『でんでんむしのかなしみ』が在ります。
こんな話です。
或る日、でんでん虫は、大変なことに気がつきました。
「わたしの背中の殻の中には悲しみがいっぱい詰まっているではないか」と、
この悲しみはどうしたらよいのでしょう。
でんでん虫は、お友達のでんでん虫の所に相談に行きました。
「わたしは悲しみがいっぱいです。もう、生きてはいられません」と言うと、
その友達のでんでん虫は言いました。
「あなたばかりではありません。わたしの背中にも悲しみはいっぱいです。」
それじゃ仕方がないと思って、次々に、別のお友達の所へ相談に行きました。
でも、どのお友達も言いました。「あなたばかりじゃありません。わたしの背中にも悲しみはいっぱいです。」
どのお友達も同じことを言うのでありました。
とうとうはじめのでんでん虫は気がつきました。
「悲しみは誰でも持っているのだ。わたしはわたしの悲しみを堪えて行かなきゃならない」
そして、このでんでん虫はもう、嘆くのをやめたのであります。
15年前にインドで開かれた国際児童図書評議会世界大会で、美智子皇后さまが基調講演をされました。
「子供時代の読書の思い出」と題する講演では美智子様の幼い頃から小学生までの読書体験を語られ、いくつかの印象に残った作品を上げながら、その読書体験がその後の人生にどんな影響をもたらしたかといったものでした。
美智子さまはこの『でんでんむしのかなしみ』の話から、「生きて行くのは楽ではないのだ」と、何と無く不安を感じたと話されました。
本を通じて喜怒哀楽を知ることで人生の厚みを加え、周りの人への思いを深めることができたと、講演を結ばれました。
民間から皇室へという希有な人生を歩んでこられたことを考えると「人生は複雑なものだ」という美智子さまの言葉はとても自然に受け入れられるものであったし説得力を持っていました。
「人生には単に勝ち組と負け組だけがいるのでもなく、割り切れない、みんな複雑さの中で、あの「でんでん虫」のように悩んだり・苦しんだり・悲しんだりして、殻を背負って生きているのですよ。」と言われたようでもあります。
お釈迦様は、「一切皆苦」と言われました。世の中は「思い通りにはならない」ということです。したがって、「人生は決して単純ものではなく複雑なものだから、それを乗り越える力を持ちなさい。」というメッセージだったとおもいます。
悲しみを背負っていてもこらえて生きていかなければならないと悟ったあのでんでん虫はその後どうなったのでしょうか。「誰も、悲しみを背負っている。」と納得しても、自分の殻の中の悲しみに押しつぶされそうになることもあったに違い在りません。 それでもでんでん虫は、悲しみ・苦しみを乗り越えた向こうに、自分の中にしっかりとした生き甲斐や、喜びを手に入れたことと思います。
社会的に価値のある人が、そのまま人間としての価値が高いわけでは在りません。
「悲しみをこらえ続けるその向こうに、他の人を思いやる優しさや愛が生まれます。」
「苦しみ・悲しみを消すための道がある。それが、仏の道であり、お念仏の日暮らしです。」
お念仏の生活をしていると、
霧が突然晴れるかのように「そうだったんだ!」と違った世界が開けることがあります。
このたび、当布教師会より法然上人800回大遠忌記念事業として法話集「法然さまからのお手紙とお歌」を出版いたしました。
法然さまが「黒田の聖人(ひじり)」に宛てた一紙小消息を、管長猊下お手ずから、わかりやすく現代の言葉に置き換えていただき、それを一区切りづつ布教師会の布教師がお説教として書き下ろしました。 また法然さまの代表的なお歌を八首取り上げ、それをテーマとしたお説教も掲載しております。
この本のお求めは、≪総本山誓願寺公式サイト「出版書籍のご案内」ページ≫ よりご購入いただけます。(一部1,000円税込/送料別)
前へ
次へ
前の画面に戻る
facebook area